億泰のカプレーゼ

果物が食べられない。
嫌いなもので自分を語ってすみません。でも食べられない。
なぜかは分からないが、小さいころから果物を食べると反射で吐きそうになってしまう。

食感が似たものも苦手なので、トマトもだめだ。
野菜の一部にはあまりにも果物に似た連中がおり、トマトはその代表格だ。赤すぎるし、みずみずしすぎる。
仮にも野菜を名乗るなら、もっと葉っぱ中心のフォルムにできないのか? キャベツやレタスを見習え。

そういう訳で、トマトを見かけるたびに8万回舌打ちをしていたが、なんと今は普通に食べられる。
生のトマトをかじれ、と言われれば抵抗があるが、スライスされていれば全然平気だ。

理由はかなり単純だ。
僕は高校生のころ、『ジョジョの奇妙な冒険』をアホほど読んでいた時期がある。
虹村億泰という僕より単純な男が、レストランでイタリア料理を食べるだけのエピソードがあり、そのメニューには『モッツァレラチーズとトマトのカプレーゼ』が含まれていた。
そのカプレーゼが、ウマそうにも程があったのだ。
カプレーゼを初めて食べた億泰は、「トマトとチーズがお互いを引き立てあう、まさにハーモニー」「ウッチャンに対するナンチャン」「サイモン&ガーファンクル」などと絶賛する。

奇妙な漫画なので、食べた結果として億泰の肩がエグれたりするのだが、それはともかく「そ、そんなにウマいのか?」と僕にすら思わせるリアクション。
頭の片隅にカプレーゼへの興味を植え付けられた僕は、ある日訪れたバイキングで、試しにエイヤッと食べてみた。

億泰の言っていたことは本当だった。口の中で『サウンド・オブ・サイレンス』が流れている。
この世にこんな爽やかで美味しい料理があったのか。
衝撃を受けて、三回おかわりした。こうなると、億泰より僕の方が単純なんじゃないか。

それ以来、トマトは食べられる。
ただし果物、テメーはダメだ。まだ心を許していない。
まあ、荒木飛呂彦先生が果物を美味しく描いたら、ちょっと分からないけども……。

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