破壊王

その日の早朝、妻のガラスペンのペン先が折れた。

僕は早朝に起きたことが人生において10回も無いので、折れた現場は見ていない。
起きて最初に見たのは落ち込み過ぎて顔がシワシワになった妻だ。
肩はガックリ、身長も縮んでいた。体重を計ったら昨日より1.2kg落ちていたらしく、それは普通に嬉しかったとの事である。

「なんかぁ・・・折れちゃって・・・」

ばつも悪そうであった。語調がパソコンを壊しちゃった子供と完全一致していた。

そのガラスペンは半年前の記念日に僕が贈ったプレゼントだ。

全然気にしなくていいが、壊した当人からするとなんとなく申し訳ない感じになるのは分かる。
「オッケー、また買おっか。」と聞けば、製造元でペン先交換を行ってくれるそうだ。じゃあ全然いいじゃん、マジで良かったね。親切な製造元のお陰で万事解決である。
「ごめんねー、あとで郵送してくるね」と言いながらガラスペンの箱を抱く妻の手をふと見ると、左手薬指の指輪が目に入った。僕の指輪と対になるデザインなのだが、大きな違いとして、妻の方の指輪には小さいダイヤモンドが5個はめ込まれているのだ。

5個ぜんぶ無くなっていた。

ダイヤがあった場所には、暗い穴が並んで空いているだけである。蓮コラか?
いちおう見間違いの可能性も考えて、「指輪が蓮コラになってない?」と疑問形で聞いてみると、ヘヘッと妻が笑った。悪事がバレたときの、バレ笑いである。映画やドラマで犯人が追い詰められたときに笑い出すやつがあるが、アレのミニバージョンだ。

「私も気づいたらこんなんなってて、たぶんダイヤの留め具が服の繊維に引っかかって取れちゃったんだよね、フヒ」

すいやせん、と言いながら依然ウケている。かく言う僕もウケていた。指輪がキモくて面白かった。あとゴメンね、とも思った。そんなに簡単に取れちゃだめだよな。なにかの記念日にまた買おう。ダイヤがガッッッチリ溶接されている指輪にしよう。

ついでに僕は思い出した。僕がプロポーズした時に渡したネックレスも、妻はすぐブッ壊していた。経緯は忘れたが、とにかく金具が千切れた。ご存知だろうか。ネックレスは千切れると首にかけることができない。

アクセサリーボックスを開けて、件のネックレスを二人で久々に見てみると、使っていないのでかなり綺麗な状態であった。でも使うことはできない。千切れているからだ。

僕は抗議した。なぜか僕が記念日に渡したモノばかり壊れている。いやいや、と妻は言う。大事にしているからこそ、よく使うからこそ壊れてしまうのだ、と。

「それに、結婚前に貰ったこのピアスは壊れてないし」

そう言いながら妻がボックスからピアスを持ち上げると、ポロリと装飾が剥がれ落ちた。

“破壊”を司る能力者じゃねえか。

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