二つ名

ああ・・・・それにしても『二つ名』が欲しいっ・・・・・・!!

そう、僕もみなさんと同様、二つ名(ふたつな)が欲しい。みなさんもそうですよね?

二つ名とは、その人の見た目や活躍を端的に表した異名のことだ。
虎殺し:愚地独歩とか、ミステリーの女王:アガサ・クリスティーとか。かっこいい…。

今のところ活躍をしていないため、僕に二つ名がつく確率はかなり低い。でも望むのは自由だろうが。文句あるか。

 

それにしても、『DUNE Part2』を観に行ったときは度肝を抜かれた。
主人公であるポール・アトレイデスには、疾風怒濤の勢いで二つ名がついていくのだ。

物語中盤、フレメン(砂漠の民族)に認められたポールは、族長からウスールと名前を与えられる。
さらに戦士の名として、ポールは自らムアディブと名乗ることを許されるのだ。

この時点で、ポールはウスールとも呼ばれるし、ムアディブとも呼ばれるし、普通にポールとも呼ばれる。
これはかなり羨ましい。

さらに、フレメンの予言における救世主(マフディー)だとも信じられているため、マフディーと呼ばれることもある。

そのマフディーにはリサーン・アル=ガイーブという長い正式名称があり、ポールが崇められるシーンではリサーン・アル=ガイーブと呼ばれる。

あと、別の宗教組織にはクウィサッツ・ハデラック(覚醒者)と呼称されている。

おい、羨ましい!!!!

 

映画館から帰ったあと、「二つ名メーカー」というサイトを見つけた。名前を入力すると、ランダムに二つ名をつけてくれるらしい。インターネットにはなんでもあるな。

「寒川響」と入力すると、「しんなり山賊:寒川響」と出た。最悪。

茹でたタマネギ以外で見たことない表現と、ワンピースの序盤にしか出てこない犯罪行為が合体した人間が誕生してしまった。

ヒゲと母性

数年前から、ごはんが楽しくなってきた。単に年齢を重ねたせいか、自分で選べることが増えたせいか分からないが、美味しいものを食べることにエンタメ性を感じるようになった。

ただ、「最近、これ美味しくて~」みたいな話をバンドにすると、必ず「あのサンちゃんがねぇ…。」と竜がしみじみ呟くのが腹立たしい。

確かに、10代の僕は「食事?フン、興味ないね…。」といった感じの態度だったかもしれない。

そんな食事のクラウドみたいだった人間が、モリモリ飯を食ってBMIをガンガン上げているのだ。
竜も「あの、サンちゃんがねぇ…。」と言いたくもなるのだろう。
だけど、やめてくれ。お母さんみたいにしみじみするな。俺の成長を優しく見守るなよ、ヒゲ人間が。

とはいえ、例えば田中がお菓子を床にこぼさなくなったり、ハヤトがクイックルワイパーで自室を掃除したりし始めたら、どうだろう。

「成長、したんだねぇ…。」と僕も言ってしまうだろうな。お互い様という訳か。

カリコ

『カリコ』という言葉を思い出した。

確か、子どもをさらう妖怪だ。小柄だが、大きな恐ろしい仮面を被っている。夕方になると現れ、なんだか分からないが子どもを誘拐したりするのだ。

いや、違うっけ。食べちゃうんだっけ。いや、槍で刺してくるんだっけ。

具体的なディテールがまったく蘇ってこないので、ネットで検索してみる。

『カリコ 妖怪』・・・ヒットしない。

『カリコ 都市伝説』・・・ヒットしない。

『カリコ 夕方』・・・ヒットしない。そういう名前のリゾート施設しか出てこない。

あの手この手で試してみたが、一切見つからない。

がぜん気になってきた。マイナーな都市伝説だとしても、この大インターネット時代に痕跡すらないとはね。

 


 

もともとは父が子供のころに流行った噂話、のはずである。先日、あらためて直接聞いてみた。

「カリコってなんだっけ。あの、仮面つけてて、なんか人を槍で刺しに現れる…。」

「ああ、カリコってあったなあ。でも、仮面とか槍は後付けというか、俺が作った話だから違うな。」

すいません、おじさんの作り話でした。解散、解散!!

「いや、元になった話はあるよ。20年前くらいにフィギュアの造形師と組んで作品を作ったときに、『カリコ』の話をベースに肉付けした設定が仮面とかの部分だな。もともとの噂話は俺が小学生の頃だから、50年以上前の…」

と、父が語った話をまとめたのが以下のものである。

カリコ

 

1970年代、香川県H小学校内で局所的に流行った噂話だそうだ。

夕暮れ時の田舎町に、『カリコ』と呼ばれる何かが現れる。

下校中や塾帰りに目撃されることが多く、それは大きく伸びる”影”のように見えるそうだ。

その”影”を落とす実体を見た者はいない。

なぜ現れるのか、なぜ『カリコ』と呼ばれるのか? それも分かっていない。

『カリコ』の影につかまると、その子供は死んでしまうという。

 

おお…。ひどく曖昧な話ではあるが、曖昧ゆえの迫力がある。

有名な都市伝説、たとえば 口裂け女やトイレの花子さん などには、怪異の由来やルールがハッキリしているものも多い。なんなら対処法すら広まっている場合がある。

しかし、カリコに細かい設定はない。ルールもなにも、とにかく夕方にそれっぽい影を見たら死ぬのだ。

この理不尽さは自然災害に似ているが、カリコは災害が敵意を持って子どもをターゲットにしているようなものだ。かなり怖い、というか、迷惑な存在である。

 


 

カリコの話で優れていると思うポイントは、流行のツボの押さえ方だ。
噂話や都市伝説に重要なのは、いわゆる体験談(ウソも含めて)だが、『カリコ』は簡単な2ステップで作れる。

①夕方に ②なんらかの影を見る。

これだけ。そりゃ流行りますよ。

 

「公園から家に帰る途中、角のブロック塀から大きい影が伸びているのを見た。カリコに間違いない。」

「学童の電柱の裏、誰かが立っていた。あの影は絶対人間じゃなかった。カリコだと思ってすぐ逃げた。」

 

マジでこれだけでいい。教室大騒ぎ確定。「旧校舎の〇階の元音楽室で何をどうこう~」とか「〇丁目の電話ボックスで〇回呪文を唱えて~」とか必要ないのだ。

このシンプルさゆえに局所的に流行ったのは間違いないと思うが、悲しいかな、シンプルさゆえに飽きられ、あっという間に消えた都市伝説なのだろう。

 


 

ところで、なぜ”影”を子どもたちは恐れたのか?

それまでも影はその辺にあったはずなのに、ある時期を境に、”影” に『カリコ』という名前をつけて怖がり出したのだ。

父が言うには、あるCMが影響しているのではないか、という。

1972年に放映されていた『森永 チョコベー』のCMである。実際の映像がYoutubeにアップされていたので、ぜひ見ていただきたい。

 

 

校庭で遊ぶ平穏な風景から一転、少年の”影”がショッキングな音とともに山に伸びていく。

山より大きくなったその影を、ナレーターが低い声でこう呼ぶのだ。「チョ~コベ~~」と…。

お菓子のCMなのに、味や見た目のアピールを一切していない。ただただ、インパクトを優先したと思しきこのCM、目論見通り大流行したそうだ。

父の通っていたH小学校も例外ではなく、「チョ~~コベ~~」「キミは、チョコベーを見たか!?」とそこかしこで聞こえた。

特に奇妙で子供たちの興味を引いた部分が、”影”が伸びていく謎のシーンである。
“影”が伸びるときの不気味なSE、不条理な演出!それは子供たちの脳裏に「なんか影ってコエーよな」という深層心理を植え付けた。

その結果生まれたのが、“影”そのものを怖がる『カリコ』という噂話だったのではないか…、というのが父の考えである。

 


 

いやあ、よかったよかった。知りたかったことが大体知れたとき、心が晴れ晴れとするなあ!

このようにひっそり消えていく都市伝説は、きっと僕が思うよりもはるかに数多く存在するんだろうな。

それは惜しいので、少なくともこの話はインターネットに放流しておこう。世は大インターネット時代だからね。いずれ誰かの役に立つかもしれない。

より詳細なことを知っている・覚えている方はぜひご連絡くださいね。