
絵/文:中村竜

妻の母は、飛行機が上昇する瞬間が苦手なのだという。
わかる。独特の浮遊感、気圧が一気に変わって耳の奥がムッッとする感じ。僕もあんまり得意ではない。
不安にならないための対処法として、「ゾーンに入る必要がある」と言っていた。
具体的には『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)を購入し、離陸して安定するまで熟読することで、心を落ち着かせるテクニックである。
それを、義母は「ゾーンに入る」と呼んでいるのだ。
先日、義母ふくめた家族と一緒に飛行機に乗って旅行に出かけた。
義母は予定通り『大人のおしゃれ手帖』を購入し、機内の座席につくと、本を開くことなく熟睡し、目的地まで起きることはなかった。

久々に立ち寄った駅。好きな場所で時間を過ごすことにした。
商業施設の1フロア全体が書店で、併設されたカフェで買った本を読めるのだ。
ラルティーグの写真集も置いてあるし、ジョナス・メカスの詩集もあったはずだ。なにか買って帰りたい。
そう思ってエスカレーターを上がると、ぜんぶガシャポンになっていた。
オギャーーーーー、と思った。
書店だったときは、入り口付近に数台あるだけだったガシャポンが。
野を焼く火のように広がり、いまやすべてを支配している。
誰が悪いって、僕が悪いのだ。
“好きな場所”なくせに、”久々に”行ってるんだから。週5で行け。買い支えろ。
みんな、オアシスはいつまでもあると思うな。
オアシスを守れ。アンタが守るんや。
おっちゃんとの、約束やで…。

