non-fic

傘と要求

傘を地面と平行に持っているおじさんと、池袋駅ですれ違った。
先端を前に向けていた。危ないし、珍しい。
先端を後ろ手に持つ人ならたまに見かけるが、そのおじさんの持ち方はあまりにも「剣」だ。とめどない攻撃性を感じる。

まあまあ混む時間帯に「剣」をやっているので、周りの人がおじさんを避けていた。
すれ違うとき、チラッと表情を伺う。当然です、みたいな顔をしていた。

 

みなさん。東京は、おかしくなっています。

無敵の笑顔で荒らす

公衆トイレで優雅にお花(小)を摘んでいる最中、フンフンフン~…♪と鼻歌交じりにおじいさんが入ってきた。

 

「♪フンフンフンの笑顔で荒らすフンフンフン」

 

あっ。

 

「♪フンフンフの秘密がフンフフン」

 

『アイドル』だ。

 

「♪抜けてるとこさえ エリアのフンフフン」

 

YOASOBIの『アイドル』を歌いながら、隣に並んできた。

 

「♪完璧で嘘つきな君はぁ!」

 

ファスナーを下ろした!

 

「 天 才 的 な ア イ ド ル 様 !!」

 

チ ョ ロ ロ ロ ロ…。

 

僕は、普通に声を出して笑ってしまった。

ジジイはニヤリとしていた。

大きいお友達

太った。アアアアーーーーーーーーーーーッッッッ!

コタツで横になりつつアルフォートを食べる冬を送っていたら、余裕で5kg太っていた。
なんでだ。SIX PAD(体に装着して、電気刺激で筋トレするアイテム)をおなかに当てていたのに。
ちゃんと調べたら、SIX PADに痩せる効果は別にないらしい。僕の買い物はこんなことばかりだ。

今はちゃんと有酸素運動で瘦せようとしている。アルフォートもやめた。
小学生の息子に ダイエットを始めたこと、アルフォートをもう食べないこと、60kgが目標であることなどを伝えると、「60kg? へ~、僕の友達の体重じゃん。」と言われた。

思うことはそりゃもう色々あったが、とりあえず「その子と喧嘩しないほうがいい」とだけ伝えてある。

寒川一万石

「此度の活躍、大変ご苦労であった。よって、三千石(さんぜんごく)を与えよう。」
「ははーっ。ありがたき幸せ。」

こういう会話、時代劇や小説でちょくちょく見かける。歴史に明るくないため、たいていの事を「こういうもんなんね」と流してしまっていたけど、だんだん気になってきた。

なんなんだろう。偉い人から貰う謎の褒美、『石(こく)』

いや、うっすら分かってる。たぶん領地のことだ。偉い人から貰える領地の面積、すなわち現代でいう平方メートルを、由来は知らんけど『石』と表現していたのだろう。

「違います。」

え?

「違う、というか正確じゃないですね。中学の社会科で習いませんでしたか?(笑)」

誰?

「『石』とは、領地内で収穫される米の量の単位です。こんな常識も知らないとは、日本の学校教育の水準が思いやられますね…。┐(´д`)┌ヤレヤレ」

最悪だ。ヤフー知恵袋の、知識で人を見下すことで快感を得てる人が来た。

一石は、成人男性が消費する一年分の米の量=米俵ひとつ分です。たとえば一千石を与えられれば、1000人分の米俵が作れるほどの土地、収入、そしてマンパワーを得ることを意味します。」

説明は分かりやすい…。

「ありがとうございます。人から褒められるって嬉しいですね。もっと褒められたい。砂漠に花を咲かせる活動を始めようかな。」

そうですか、いいことだと思います。

調べたところ、その土地の統治者が一石から得られる収入は、現在の貨幣価値で一年あたり約30万円だそうだ。十石で300万、百石なら3000万! けっこう凄い。

ん?待てよ。
僕の先祖は、戦国時代に香川県を治めていた。給料は一万石だったらしい。

 

えっ…。

つまり、年商30億円…???

 

子孫は空中カメラとかいうバンドを自転車操業でやってるのに、先祖は年商30億円…?

 

なに食ってたんだろう。

駅前の高級食パンとか、躊躇なく買ったりしてたんだろうか。
脇差はCOACHの鞘に収めていたんだろうか。

「えっ、そなたの巾着袋、KateSpadeの新作じゃん!色カワイ~!それがしも買おっかなー。てか双子コーデせん?」とか言ってたのかな。

イヤだな。

絵:田中野歩人 文:寒川響