non-fic
誠実さのかけらもなく笑っている奴がいるよ
自宅のトイレには本が並べてある。
『羊男のクリスマス』『羊たちの沈黙』『電気羊はアンドロイドの夢を見るか?』の3冊だ。
来客があると「あれはなんだ」「羊が好きなのか」と聞かれるが、全然そんなことはない。
『羊男』と『電気羊』をもともと持っていたので、「あと一冊あれば・・・刻子(コーツ)※1 だ!」と思ってブックオフ ※2 にポンしに行っただけだ。
(人生の中で意識せずに手に入れた本は『ツモ』※3 、ブックオフでは誰かが持ってた本を買うので『ポン/チー』※4 とする)
上記の旨を説明すると、麻雀を知らない人はポカンとするだけだが、麻雀好きは「なるほど!」等と言ってくれる。
続けて、麻雀好きは当然麻雀トークを始めるのだが、僕は麻雀をよく知らない。漫画でルールをうっすら知っているだけだ。
だから、今度はこちらがポカンとしたり愛想笑いをする羽目になる。
このようなことを繰り返した結果、僕は町でもっとも不誠実な人間として名を馳せている。
※1 麻雀用語。同じ牌を3つ揃えること。
※2 この世のすべてが売っている店。
※3 麻雀用語。山から自分で引くこと。
※4 麻雀用語。誰かが捨てた牌をもらう行動。
俺のスマホはガラガラヘビ
コーヒーを買って席に戻ると、妻と息子の隣に大きめのアメリカ人が座っていた。
ジェダイの格好で、デカいチキンをほおばっている。
普段なら異様な光景だろうが、今日はスターウォーズ・セレブレーション(大型ファンイベント)の初日だ。
現に僕もスターウォーズのキャラクターの仮装をして、思う存分会場をウロウロしている。
「やあ、ジェダイ」と声をかけると、「やあ、どうも!僕はケニー(仮名)。カリフォルニアから来たジェダイ・ナイトだ。よろしくな!」と満面の笑みが返ってきた。
ケニーは日本に来るのは初めてだということや、先ほど発表された新作映画にワクワクしていることを、意味なくヨーダの物まねを織り交ぜながら教えてくれた。
そしてとにかく笑う。自分でしゃべっても笑うし、こっちがしゃべっても笑うし、少し照れている僕の息子に話しかけては笑う。
笑いすぎて、ホットドッグ用のケチャップを自分の服にこぼしていた。「オー、ノー!!!死ぬ~~~!!」と叫んで、また笑っていた。
せっかくだからみんなで写真を撮ろうとすると、ケニーが慌てだした。
「あれっ。スマホが。スマホが見当たらない。」
ないない、と言いながら、ローブのポケットやカバンを探している。
ちょっと、ケニー。と僕と妻が声をかけ、同時に机の上を指さした。最初からそこにあったのだ。こういうことってあるよな。
ケニーは「意外だ!!」という表情でスマホを取り上げ、僕らの顔を見回した。
「もし僕のスマホがヘビだったら、嚙まれて死んでいただろうね!」
そう言うやいなや、ケニーは今までで一番デカい声で笑い出した。涙を流して笑っていた。
なんてこった。ガチモンのアメリカンジョーク。なかなか聞く機会ないぜ。
ケニーと写真を撮って、「また会えるのを楽しみにしてるよ」と伝えると、「ああ!次はロサンゼルスで会おう!」とケニーは言った。
なぜロサンゼルス? カリフォルニアから来たって言ってなかったっけ?
そうは思ったが、別に聞き返すこともなくその場をあとにした。
それから数日後。次回のスターウォーズ・セレブレーションの開催情報が発表された。ロサンゼルスで開催されるそうだ。
ケニー、君は関係者だったのか? それとも、本当に予言ができるジェダイだったのか。
吊り革
コンタクト応援団
裸眼の俺が必要な用事があるため、コンタクトレンズを作った。
今まで一回もつけたことがない。あんなうっすい物体を眼球に直接、”つける”て。ほとんど目を触ってるのと同じじゃないか。
眼科で検診を受けて、そのまま看護師さんにサンプルのコンタクトレンズの装着方法を教えてもらうのだが、呆れるほど失敗した。
やっぱり目を触るのと何も変わらなかった。自分の指が眼球に触れると、しみて目を閉じてしまう。
「寒川さん、両目とも閉じないでください!」
「がんばって!」
「黒目はまっすぐ、鏡ですよ~。」
なんか、看護師さん増えてないか?
気が付くと3人くらいに応援されていた。こんなに情けないことってあるか。
応援はありがたいけど、一向にうまくいかない。失敗するたびに「「「あ~~惜しい~~」」」などとギャラリーから声があがる。
すまねえ、みんな。 クソ、俺がもっと器用なら…!
結局、看護師さんの一人につけてもらった。検診が進まないから。
「大丈夫、大丈夫。すぐに慣れますよ!」
看護師のみなさんが優しい笑顔で「うん、うん」とうなずく。
クッ…。
な、泣いてねえよ。ちょっと目が染みただけさ。