non-fic

葉山芸術祭のこと

4月、葉山芸術祭のオープニングライブにバンドで出演した。
僕の地元で毎年開催されているイベントだが、出演者側として関わるのは初めてだ。うれしい。

ライブ当日になんとなく会場内をウロウロしていると、あちこちに知った顔がある。
僕が出演すると聞いてわざわざ来てくれた人も複数いた。かなりうれしい。

(ありがたいねェ…♡)(ライブ頑張りますねェ…♡)といった心持ちで出番を待つ間、一人の男性に目が留まった。
肩をいからせ、ガニ股をできる限り開き、首をゆらゆらさせながらノッシノッシと歩いている。

あの顔。たぶん中学のときの同級生だ。

名前こそ思い出せないし、同じクラスだったかも分からないが、とにかくピンとくるものがある。
同級生だ。

同級生が、30超えた同級生が、元気いっぱいにヤンキーを頑張っている。

少なくとも彼と友達だった記憶はないため、僕はそそくさとその場を離れた。鉢合わせたところで、なにか良いことが起こるとはとても思えない。

 

やがて出番の時間がやってきた。数曲の演奏ののち、中村竜のMCタイムが始まる。

「今日はみなさんありがとうございます。ここ葉山は、ギターの寒川響の地元でね!」

おっ、その紹介はヤバい。ライブ後に、同級生に話しかけられる未来が見える。

「寒川響!?サンちゃんじゃん!俺、〇〇!分かる?××中のさァ!」

やめてくれ。どうせごく小さな共通の話題しかないのに。
社会科の先生、髪の薄さを自分でイジりすぎてて、生徒は逆にそこには触れないようになってたね、とかさ。
弱いだろ。思い出話としても。

どうしよう。ていうか、なんで来たんだろう。まさか、認知してるのか? 空中カメラを、認知してる?
同級生がやってるバンドを認知して、来た可能性がある?

 

えっ? いいヤツ…ってコト?

 

試しに客席を見渡すと、彼はいなかった。そりゃそうですね。

傘と要求

傘を地面と平行に持っているおじさんと、池袋駅ですれ違った。
先端を前に向けていた。危ないし、珍しい。
先端を後ろ手に持つ人ならたまに見かけるが、そのおじさんの持ち方はあまりにも「剣」だ。とめどない攻撃性を感じる。

まあまあ混む時間帯に「剣」をやっているので、周りの人がおじさんを避けていた。
すれ違うとき、チラッと表情を伺う。当然です、みたいな顔をしていた。

 

みなさん。東京は、おかしくなっています。

無敵の笑顔で荒らす

公衆トイレで優雅にお花(小)を摘んでいる最中、フンフンフン~…♪と鼻歌交じりにおじいさんが入ってきた。

 

「♪フンフンフンの笑顔で荒らすフンフンフン」

 

あっ。

 

「♪フンフンフの秘密がフンフフン」

 

『アイドル』だ。

 

「♪抜けてるとこさえ エリアのフンフフン」

 

YOASOBIの『アイドル』を歌いながら、隣に並んできた。

 

「♪完璧で嘘つきな君はぁ!」

 

ファスナーを下ろした!

 

「 天 才 的 な ア イ ド ル 様 !!」

 

チ ョ ロ ロ ロ ロ…。

 

僕は、普通に声を出して笑ってしまった。

ジジイはニヤリとしていた。