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キーちゃんの夏

横断歩道の向こう側で、散歩中のダックスフンドが地面に体をこすりつけている。

天に腹を見せつけ、舌をベロンベロン振り乱し、やや白目を剥きながら、狂ったように背中を地面でこすっている。
本当におかしくなっちゃったのかもしれない。夕方なのに、気温は30°cを越えたままなのだ。僕も変になりそうだ。

信号が青になり、僕は歩道を渡るが、ダックスと飼い主の女性はその場にとどまっている。
ダックスがこすりつけをやめないからだ。

「キーちゃん、やめな! ほら、いくよ、キーちゃん!」

飼い主が声をかけているが、キーちゃんは止まらない。むしろ勢いを増して、グリグリグリン!!と全身を揺すっている。

「キーちゃん!ちょっと、フフフ。どうしたの、本当に。」

すれ違いざま、女性は笑っていた。そうだよね、長すぎるもんね。

「キーちゃん!ねえ、フフッ。 無くなっちゃうよ!そんなにしたら! キーちゃん、削れて無くなっちゃうよ!

一瞬だけ、キーちゃんと僕の目が合った。

信じられないぐらいキラキラしていた。

今日のキーちゃんは、もう無くなっちゃいたいのかもしれない。

地獄の猛暑を言い訳にして、価値や意味を超越した限界までいくのかもしれない。

キーちゃんの夏は、始まったばかりだ。

防水シートで生き残れ

電車がかなり苦手なので、たいていの場所へは車で行くことにしている。

飛行機も苦手。自転車はオッケー。バイクも平気。でもバスは苦手だ。ずっとそうだった。

運転免許を取ってから、「人生最悪~~~~!!!」という気分がかなり減衰したのを覚えている。
ギターやおもちゃ楽器(あとアイロン台)を、周りの人に頭を下げながら、バスや電車で運ぶ必要がなくなった。
ラジオを聴いて一人で笑っても怪しまれない。自分の車の中なら声を出して笑っていい。

どんなにガタガタする古い車に乗っていても、電車に比べれば天国だった。

快適さとは別に、「自分がコントロールできる」という点も重要だ。
電車やバス、飛行機の遅れや事故は、乗客の僕にコントロールできない。

車で目的地に向かうときは、道の選択やアクセルの加減は僕次第だ。
仮に事故にあって死ぬとしても、死の瞬間までに選択肢はいくつもある。
最後にハンドルをきるのは右か左か。ブレーキはどのタイミングで踏むか。どうせなら自分で選びたい。

これが飛行機だとどうだろう。「当機はこれから墜落します。スマソ。」とアナウンスされた場合、選べることはあまりに少ない。

飛行機に乗るたび思い出すのが、ラングドン教授だ。『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズの主人公、ロバート・ラングドン。

彼は、爆発するヘリから、パラシュートなしで飛び降りたことがある。大学教授のおじさんなのに。

機内にパラシュートがないことが分かると、ラングドン教授が手に取ったのは防水シートだった。

4×2mのシートをガッシリと握って、高度3000mから川に向かってジャンプ!

大怪我したものの、教授は生還していた。

いくらなんでもウソすぎる、と思いつつ、いざ自分の乗った飛行機が墜落するのであれば、僕は防水シートを探すだろう。

防水シートがなければ、ひざ掛け毛布で飛んでみる。

それこそが、僕が選択できるわずかな手段だ。

二つ名

ああ・・・・それにしても『二つ名』が欲しいっ・・・・・・!!

そう、僕もみなさんと同様、二つ名(ふたつな)が欲しい。みなさんもそうですよね?

二つ名とは、その人の見た目や活躍を端的に表した異名のことだ。
虎殺し:愚地独歩とか、ミステリーの女王:アガサ・クリスティーとか。かっこいい…。

今のところ活躍をしていないため、僕に二つ名がつく確率はかなり低い。でも望むのは自由だろうが。文句あるか。

 

それにしても、『DUNE Part2』を観に行ったときは度肝を抜かれた。
主人公であるポール・アトレイデスには、疾風怒濤の勢いで二つ名がついていくのだ。

物語中盤、フレメン(砂漠の民族)に認められたポールは、族長からウスールと名前を与えられる。
さらに戦士の名として、ポールは自らムアディブと名乗ることを許されるのだ。

この時点で、ポールはウスールとも呼ばれるし、ムアディブとも呼ばれるし、普通にポールとも呼ばれる。
これはかなり羨ましい。

さらに、フレメンの予言における救世主(マフディー)だとも信じられているため、マフディーと呼ばれることもある。

そのマフディーにはリサーン・アル=ガイーブという長い正式名称があり、ポールが崇められるシーンではリサーン・アル=ガイーブと呼ばれる。

あと、別の宗教組織にはクウィサッツ・ハデラック(覚醒者)と呼称されている。

おい、羨ましい!!!!

 

映画館から帰ったあと、「二つ名メーカー」というサイトを見つけた。名前を入力すると、ランダムに二つ名をつけてくれるらしい。インターネットにはなんでもあるな。

「寒川響」と入力すると、「しんなり山賊:寒川響」と出た。最悪。

茹でたタマネギ以外で見たことない表現と、ワンピースの序盤にしか出てこない犯罪行為が合体した人間が誕生してしまった。