non-fic

相対的ビックリ人間

人体の構造上、ヒジって舐めることができないらしい。という話をしていたところ、「えっ、僕できるよ。」と言いながら、中村竜が自らのヒジを舐めた。

舌が特別長いわけでもなさそうだ。とにかく器用にヒジを内側に折り畳み、ペロペロ舐めている。

「ビックリ人間だ!」と騒いだら、その場にいた田中が「俺もできるんだよな。」と言いながら、同様にヒジをペロッと舐めた。

なんてことだ。2対1だ。

ということは、ビックリ人間は、俺の方…?

『JAWS』と子供

子供(10歳)と『JAWS』を観て盛り上がっていたら、日付を回ってしまった。22時には寝かすつもりだったのに。

そう、『JAWS』は盛り上がるのだ。
やたらとヤジの飛ばしがいがある。

サメが出てくれば「帰れ!!」「魚を食べてくれ」などと声が上がり、漁師・クイントの奇行には「帰れ!!」「やる前に相談しろ」「こいつ本当に頼りになるのか」などの怒号が飛び交う。

もっともヤジられたのは市長。とても魅力的な男だ。
サメに人が食われまくっていても、頑として海開きをあきらめない。

女性が食べられても、子供が食べられても、地元の漁師が食べられても、なんやかんやビーチを開き続ける。

警察署長の説得が空振りするたびに、息子があぜんとしている様が面白かった。
「アミティ島民のみなさん、こいつをクビにしよう!」と提案していた。

次は『プレデター』を一緒に観ます。

キーちゃんの夏

横断歩道の向こう側で、散歩中のダックスフンドが地面に体をこすりつけている。

天に腹を見せつけ、舌をベロンベロン振り乱し、やや白目を剥きながら、狂ったように背中を地面でこすっている。
本当におかしくなっちゃったのかもしれない。夕方なのに、気温は30°cを越えたままなのだ。僕も変になりそうだ。

信号が青になり、僕は歩道を渡るが、ダックスと飼い主の女性はその場にとどまっている。
ダックスがこすりつけをやめないからだ。

「キーちゃん、やめな! ほら、いくよ、キーちゃん!」

飼い主が声をかけているが、キーちゃんは止まらない。むしろ勢いを増して、グリグリグリン!!と全身を揺すっている。

「キーちゃん!ちょっと、フフフ。どうしたの、本当に。」

すれ違いざま、女性は笑っていた。そうだよね、長すぎるもんね。

「キーちゃん!ねえ、フフッ。 無くなっちゃうよ!そんなにしたら! キーちゃん、削れて無くなっちゃうよ!

一瞬だけ、キーちゃんと僕の目が合った。

信じられないぐらいキラキラしていた。

今日のキーちゃんは、もう無くなっちゃいたいのかもしれない。

地獄の猛暑を言い訳にして、価値や意味を超越した限界までいくのかもしれない。

キーちゃんの夏は、始まったばかりだ。

防水シートで生き残れ

電車がかなり苦手なので、たいていの場所へは車で行くことにしている。

飛行機も苦手。自転車はオッケー。バイクも平気。でもバスは苦手だ。ずっとそうだった。

運転免許を取ってから、「人生最悪~~~~!!!」という気分がかなり減衰したのを覚えている。
ギターやおもちゃ楽器(あとアイロン台)を、周りの人に頭を下げながら、バスや電車で運ぶ必要がなくなった。
ラジオを聴いて一人で笑っても怪しまれない。自分の車の中なら声を出して笑っていい。

どんなにガタガタする古い車に乗っていても、電車に比べれば天国だった。

快適さとは別に、「自分がコントロールできる」という点も重要だ。
電車やバス、飛行機の遅れや事故は、乗客の僕にコントロールできない。

車で目的地に向かうときは、道の選択やアクセルの加減は僕次第だ。
仮に事故にあって死ぬとしても、死の瞬間までに選択肢はいくつもある。
最後にハンドルをきるのは右か左か。ブレーキはどのタイミングで踏むか。どうせなら自分で選びたい。

これが飛行機だとどうだろう。「当機はこれから墜落します。スマソ。」とアナウンスされた場合、選べることはあまりに少ない。

飛行機に乗るたび思い出すのが、ラングドン教授だ。『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズの主人公、ロバート・ラングドン。

彼は、爆発するヘリから、パラシュートなしで飛び降りたことがある。大学教授のおじさんなのに。

機内にパラシュートがないことが分かると、ラングドン教授が手に取ったのは防水シートだった。

4×2mのシートをガッシリと握って、高度3000mから川に向かってジャンプ!

大怪我したものの、教授は生還していた。

いくらなんでもウソすぎる、と思いつつ、いざ自分の乗った飛行機が墜落するのであれば、僕は防水シートを探すだろう。

防水シートがなければ、ひざ掛け毛布で飛んでみる。

それこそが、僕が選択できるわずかな手段だ。