
高校生のころである。
昼休みになると僕や田中は図書館横のベンチテーブルに集まり、CDやDVD、漫画の貸し借りを行いながら、同級生の陰口を叩きあう、カスのカルチャーグループとして校内で頭角を現していた。
ある日、田中に「寒川、『A-Punk』知ってるか?」と聞かれ、僕は「ああ、知ってるよ。ヤバいよな、『A-Punk』」と答えた。
知らなかった。知ってて当たり前みたいな口ぶりだったので、とっさに虚言が飛び出てしまった。
急いで帰って、汗だくのままYouTubeで『A-Punk』を検索したのを覚えている。てっきりバンド名だと思っていたが、曲のタイトルだった。
この一曲を聞いて以来、ずっと僕はヴァンパイア・ウィークエンドのファンだ。
当時の僕にとって『A-Punk』の衝撃はすさまじく、やたらと軽快なギターサウンドと記憶に刺さるリフレイン、そして謎めいた歌詞の世界観にすぐ魅了されてしまった。
『A-Punk』の詞は明らかに誰かの死を暗示している。
だけど、具体的になにが起きたのかはサッパリわからない。
固有名詞が大量に出てくるのに、結果的に浮かび上がるのはボヤけた雪景色だけ。
これって相当クールなことだ。言葉と音を高度に操っていて、しかも聴き手を信頼している。
すぐにTSUTAYA DISCASでアルバムを借りて、ブルーに煌めくiPod Nanoにダウンロードした。
自転車・電車・バスを乗り継ぐ1時間半の通学は心底苦痛だったが、『M79』や『Oxford Comma』のおかげで気が狂わずに済んでいたと思う。
去年の新譜『Only God Was Above Us』のLPもウキウキで手に入れたが、妻に実物を見せたら絶句された。
「それ、響の誕生日プレゼントにと思って買っちゃったんだけど・・・。」
ホラ、と言いながら妻がクローゼットの奥を指さした先には、きれいにラッピングされたLPサイズの袋があった。
「FOR YOU」と書いてあった。
ドーン。YOU FAILD。お買い物失敗。
2枚あってもしょうがないので、僕が買った方の『Only God Was Above Us』は田中の誕生日にあげることにした。
横流しといえば横流しだが、田中に教えてもらったモノが田中に巡った、と考えたほうが美しいと思う。