2025.03.10 泡に覆われた人生 *ウンコの話をします。 都内のスタジオで大きいお花を摘んでいて、ふと気が付いた。便座内がフワフワの泡で満ちている。そして、ウンコ本体がフワフワの泡で見えない。いや、別にいい。便座くん、ご配慮ありがとう。自分が出したはいえ、見たくないときってあるもんな。このフワフワの泡の”隠す力”たるや、その後落としたトイレットペーパーすら飲み込んで、影も形も見えなくするほどだ。おまけになんのニオイもしない。ちょっとの不快感も与えませぬぞ、という強靭な覚悟を感じる。すごいトイレもあるもんだな、と思いつつも、ある不安がよぎった。 幼少期からこのトイレを使って育ったら、”ウンコ”を知らない人間が出来上がってしまうのでは? 物心ついたときからフワフワ泡タイプのトイレだけを使う、大富豪の子供がいたとしよう。 出したモノも、拭いたペーパーも、すべては泡に覆い隠される。 そんな生活に疑問を持つことなく、やがて成人して一人暮らしを計画。 豊かな実家を飛び出し、ワンルームで新しい人生を始めるのだ。 不安と希望が入り混じる、転居初日。 ふと便意を催し、急いでトイレに駆け込み、無事に事を済ます。 便座から立ち上がり、ふと視線を落とすとそこにはー マジでどうなるんだろう。気絶するんじゃないか。 絵:田中野歩人 文:寒川響 SNSでもご購読できます。