
僕の通っていた中学校は妙にビーバップな世界観を引きずっており、転校初日に先輩に殴られた。
「挨拶がない」という理由だった。
理不尽すぎて驚いた。アライグマくんじゃないんだから。
ビンタを喰らいつつ、「挨拶がないと、なぜ殴ることにつながるのか」と聞いてみたところ、先方にも以下のようなロジックがあることが判明した。
①挨拶がない。
②ということは上級生をナメている。
③ナメられると他の下級生に示しがつかない。
④示しがつかないので、お前を殴るのはしょうがない。
とのことであった。いま、”しょうがない”で殴られてるのかよ。
そもそも、こういうビーバップなロジックは、ビーバップな人たちに適用されるべきなのではないか。
当時の僕はビーバップどころか、ギターがちょっと弾けるサツマイモみたいなもんである。
サツマイモの「おはようございます!」がそんなに欲しいか?
サツマイモに挨拶されているところを見て、「なるほど、アイツはナメられてないなあ」と他のビーバップは思うのか?
そういった反論を一応してみたところ、「思うんだよ!」と言われ、もう一発ビンタを食らった。
思うのかよ。
翌朝、エントランスでその先輩が張り込みをしていた。そこまでやるのか。
もう殴られたくないので、「おはようございます~」と挨拶したところ、「おう」とだけ返された。僕には目もくれず、校門方面を睨みつけていた。
なんだ? 狙いは僕じゃないのか?
いぶかしんでいると、同じクラスの学級委員が僕に教えてくれた。
「寒川くん、いま近づかない方がいいよ。同級生のKが、アイツ怒らせちゃって。Kはいま、裏山を逃げ回ってるんだ。」
先輩の興味は完全にKに移ったらしい。
僕は翌日から先輩に挨拶するのをやめてみたが、お咎めは無かった。なんなんだ。
いま現在、その中学校に通う子に話を聞いたところ、ビーバップな雰囲気は皆無らしい。
その代わり、登校時に通りすがる車に「おはようございまーす!」と挨拶する習慣があるそうだ。
極端な地域だなあ。