2024年 11月 の投稿一覧

意図がわかると怖くない話

2022年8月、後輩の大原(仮名)から聞き取った話です。

 


 

なんていうか、いまだによく分からない話なんですけど。

 

母方の祖母のお姉さん、アキコ大叔母さんってのがいたんですね。

4年前くらいに、大掃除したんですよ。アキコさんの家を。

当時で80歳くらいだったんですけど、割と元気な人で、早くに旦那さん亡くして以降は一人で達者にやってて。

とはいえ、結構モノも増えてきてるし、一回しっかり大掃除しようか、って話になりまして。

僕と母でアキコさん家を訪ねたんですよ。

まあ普通に、要るものと要らないもの分けて、窓拭いて、床掃除して…、ってやってたんですけど。

 

床下収納、って分かります?

キッチンの床にたまについてるやつ。― そうそう、それです。四角いフタがあって、取っ手がついてて。

ソレがアキコさん家にもあって。

 

ここも掃除しよう、と思って、取っ手を引っ張るけど開かないんですよね。

で、アキコさんに聞いたら、「あー、そこ開かんのや。」って言うんですよ。

数十年前に中古でこの家を買った時から、一度も開けたことないんですって。

確かに、なんかフタの周りが汚れで固まってる感じでした。

 

でも、中でカビとか生えてたら気持ち悪いじゃないですか。アキコさんも「開くなら、掃除できたらええけどなあ。」って言うんで。

フタの周りに洗剤かけて、雑巾でくるんだハンマーで、フタをちょっとずつ叩いて…、ってやってたら、ガパッて開いたんですよ。

 

空っぽでした。収納用のプラスチックの、深めのトレイがあるだけ。

 

なんですけど、もう、プラスチックに見えないんですよね。

底の方、おふだがびっしり貼られてたんで。紙製のトレイか?って思うくらい。

貼られ方も尋常じゃなくて、もう10枚とか20枚じゃきかない。お札の上にさらにお札貼って…、って感じで。

 

そんなん見ちゃったから、アキコさん、もう悲鳴上げて嫌がって。

なんですけど、「もうそれ剥がさんでええから!」って言うんですよ。

剥がして変なことが起きても怖いから、って。
確かにそうですよね。これを貼った誰かも、”変なこと”が起きたから、こんな風にしたんでしょうし。

だから、フタを戻して、その上からテープでしっかり目張りして、その話は終わりにしたんですよ。

 

 

去年、アキコさんが亡くなりまして。

死因は全然普通、って言ったら変ですけど、出先で心臓麻痺で倒れて、っていう。

僕と母と祖母の三人で、アキコさん家を片付けに行ったんですけど、例のお札どうする?って話になるじゃないですか。

お札って貰ったところに返さなきゃいけないらしいんですけど、前見た時も梵字?みたいなのが書かれてることしか分からなかったんですよね。

どこの、なんのお札なのか、まったく見当つかなくて。

まあ、祖母が知ってる神社に相談したら、不明のお札もとりあえずお焚き上げしてくれるそうで。それは良かったんですけど。

ってことは、剥がさないと…なんですよね。

 

メッチャ嫌でしたけど、テープ剥がして、フタ開けて。

当然貼られてますよ、お札が大量に。

なんか湿気で黄ばんだり、ポロポロ崩れてるやつもあったりして。

でもしょうがないんで、手を突っ込んで、できるだけ丁寧に、一枚ずつペリペリ剥がして。

怖いから、ちょっと薄目気味でね。

こんなに頑張ってんのに、祟られたら理不尽だな~、とか思いつつ、床にそっと置いていったんです。何枚も、何枚も。

 

そしたら、

「えっ」「ひいっ」

って聞こえて。

 

母と祖母の声でした。

俺が置いたお札を揃えようと、手に持ったんですね。

 

お札の裏面を見ながら、

「なんか、書かれてる。全部同じことが書いてある。」

って母が言うんです。

 

えっ、と思って、手元に目をやると、剥がしかけたお札の裏が少しだけ覗いてて。

「◼️◼️、ごめんね」と書いてある、ように見えました。

明らかに人がペンで書いた字でした。

 

「アキコの字だ!これ、アキコの字だよ!」

祖母がわなわな震えながら、お札の裏を見てそう言うんです。

 

でも、意味わからなくないですか?

アキコさんが、いつこれ書いたんですか?

僕らが大掃除したあと、一人でフタを開けて、お札を剥がして書いたんですか?

それとも、家を買ったとき、最初からってことですか?

そもそも、書いてあることも意味不明なんですよ。

蛍光灯に照らされると、はっきり読めました。

 

 

 

 

「まーちゃん、ごめんね」

 

 

 

 

祖母も、母も、”まーちゃん”が誰なのか、まったく心当たりがないそうです。

 


 

そこまで話すと、大原は急にむせ始めた。

 

「大丈夫?」

「いや、すいません。ゲホッ。なんか、この話すると、胸の辺りがつっかえる感じがして、気持ち悪いんですよね。気のせいだとは思うんですけど。」

 

ほら、この辺。

 

大原は、左胸のあたりを、握り拳でトン、と叩いた。

 

<了>

反射ジェダイ

「俺あのジェダイ好きなんだよな、ジェダイ・マスターでさ、緑色のちょっと魚っぽい人。なんだっけな、名前!」
「ああ、キット・フィストー」

「あの~、なんだっけ。ドラマシリーズに出てくる金髪のシスっぽい…」
「シン・ハティね。ベイラン・スコールの弟子の」

「えーと、エズラの師匠のさ」
「ケイナン・ジャラスだ」


「寒ちゃんは気持ちわりいなあ!!」

「そうなんだよ、俺、自分でも気持ち悪いんだよ!」

 

小林ファンキ風格とスター・ウォーズの話をしていると、ほぼこうなる。
たいていのキャラクターの名前は、考えるより先に反射で口から飛び出る人間なのだ、僕は。

とはいえ、小林もマニアックなので、
「最近通ってる整体が抜群で、指圧師たちを “ブレンドクのグレートマザー”(スター・ウォーズシリーズに出てくる謎の魔女団)と呼んでいる」などと言っていた。
グレートマザーたちの指圧は異常に強く、背中や腰に魔法のように効く、最高、とのことだった。

実はグレートマザーたちが居るのは惑星ブレンドクではなく、外銀河の”ぺリディア”だが、その場で口を挟んだりはしない。

友達の話を止めてまで、キモオタ訂正を始めるほど、僕は落ちぶれていないのだ。