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ドリアンに強いスタッフ

「これからドリアンを食べますが、来ませんか?」

コントユニット・転転飯店の中村亮太から、そんなメッセージが届いた。
近所の海岸で、スネでドリアンを割ろうとしているらしい。どうやって許可取ったんだ。

僕は果物が一切食べられないが、いちおう妻と息子と一緒に海岸に向かう。
到着した時にはすでに撮影は終わっていて、チーム転転飯店がドリアンを囲んで薄ら笑いを浮かべているのが、数十メートル先に見える。
ウケてしまった。もう臭いからだ。

「やあ寒川さん」「待ってましたよ」
亮太くん(ドリアンを蹴ってスネをケガしている)や平山犬(ドリアンと関係なく何故か足をケガしている)、スタッフのみんなが温かく歓迎してくれるが、心なしか目の奥に「頼むぞ……」という切望がにじんでいる気がした。
それなりにドリアンは減っていたが、確かに人海戦術でも取らないとすべて消費するのは厳しいだろう。

しかしながら、我々はあまり期待に応えられなかった。ふがいない。
息子は一口食べた瞬間「おわ~~~」と叫んでどこかへ行ってしまったし、妻は「ほ~う……」と言ったきり、それ以上もう食べようとしなかった。

僕はそもそも食べられない。ドリアンどころかリンゴもイチゴも食べられない。

が、「さ、あとはね」「寒川さんだけ、ですねぇ」と多摩美の後輩に言われたら、もう食べないわけにはいかないのだ。

一気に口に運ぶ。
おい、バカ!!! 臭すぎる!!!!!
スタンガン喰らったかと思った。鋭い、シビれる臭さだ。
舌からは甘味を感じるが、鼻から抜ける生ゴミ臭は、まるで夜明けの渋谷である。

噛めないし、飲み込めない。これ以上ドリアンを動かせない。
本当に不思議なことに、吐き気だけはしない。臭さが吐き気を追い抜いてしまったらしい。

涙目で空を見上げると、いつもは人間の食べ物を常にロックオンしているトンビたちが、一匹もいなかった。
いや、いるにはいる。めっちゃ遠くにいる。来てくれよ。助けてくれ。

そういう訳で、なんの役にも立てなかった。
すみません。一家で麦茶をガブ飲みしておしまいでした。

残った多量のドリアンは、スタッフのハラくんとこぞくんが一気に食べていた。
心配になってこぞくんに声をかけたが、「あァ、意外と大丈夫です」と普段と何も変わらない表情でドリアンを飲み込んでいた。
転転飯店は臭さに強い、パワフルなスタッフに支えられているのだ。

スネでドリアンを割る様子はこちら

フローラル、突然に

名古屋・金山ブラジルコーヒーでの出演が終わったあとの話だ。

外に出た瞬間、店の前でヤンキー4人組に絡まれた。

「お兄さん、金持ってそうすね」
「俺、ベンチプレス85kg上げるんすよ」
「失礼だと思ったら、ぜんぜん殴ってくれていいんで。ほら、顔。顔殴ってみなよ」

全部のセリフが怖すぎる。帰らせてください。ベンチプレスが何kgから凄いのかも知らないんです。
逃げるように、というか逃げる形でブラジルコーヒーに戻ると、すでにケバブジョンソンの演奏が始まっていた。

軽快に体を揺らすハヤトが目の前にいた。
ハヤトはデカい。190cm近くある。そのデカさに安心する。

ハヤトは髪も長い。TRICKの頃の仲間由紀恵より長い。
今日もそのすべての髪の毛を帽子の中に納めている。
ふいに、ハヤトが帽子を脱いだ。

フワッ、とフローラルな香りが漂う。

女性が横切ったのか? いや、ハヤトの髪だ。

不気味だった。さっきより怖い。
なにしろハヤトからは普段タバコの臭いしかしない。
「この人、こんな香りのする部位があったのか」と驚愕した。

あとで本人に伝えたら「俺っていい匂いがするのかあ」とちょっと喜んでいた。
そうは言っていないんだけどな。

億泰のカプレーゼ

果物が食べられない。
嫌いなもので自分を語ってすみません。でも食べられない。
なぜかは分からないが、小さいころから果物を食べると反射で吐きそうになってしまう。

食感が似たものも苦手なので、トマトもだめだ。
野菜の一部にはあまりにも果物に似た連中がおり、トマトはその代表格だ。赤すぎるし、みずみずしすぎる。
仮にも野菜を名乗るなら、もっと葉っぱ中心のフォルムにできないのか? キャベツやレタスを見習え。

そういう訳で、トマトを見かけるたびに8万回舌打ちをしていたが、なんと今は普通に食べられる。
生のトマトをかじれ、と言われれば抵抗があるが、スライスされていれば全然平気だ。

理由はかなり単純だ。
僕は高校生のころ、『ジョジョの奇妙な冒険』をアホほど読んでいた時期がある。
虹村億泰という僕より単純な男が、レストランでイタリア料理を食べるだけのエピソードがあり、そのメニューには『モッツァレラチーズとトマトのカプレーゼ』が含まれていた。
そのカプレーゼが、ウマそうにも程があったのだ。
カプレーゼを初めて食べた億泰は、「トマトとチーズがお互いを引き立てあう、まさにハーモニー」「ウッチャンに対するナンチャン」「サイモン&ガーファンクル」などと絶賛する。

奇妙な漫画なので、食べた結果として億泰の肩がエグれたりするのだが、それはともかく「そ、そんなにウマいのか?」と僕にすら思わせるリアクション。
頭の片隅にカプレーゼへの興味を植え付けられた僕は、ある日訪れたバイキングで、試しにエイヤッと食べてみた。

億泰の言っていたことは本当だった。口の中で『サウンド・オブ・サイレンス』が流れている。
この世にこんな爽やかで美味しい料理があったのか。
衝撃を受けて、三回おかわりした。こうなると、億泰より僕の方が単純なんじゃないか。

それ以来、トマトは食べられる。
ただし果物、テメーはダメだ。まだ心を許していない。
まあ、荒木飛呂彦先生が果物を美味しく描いたら、ちょっと分からないけども……。