
通報
ある夜、露出狂にでくわした。
コートの下が全裸、というタイプの由緒正しい露出狂ではなく、いわゆる社会の窓からおじさんのホンキートンクがチラ見えしている、奥ゆかしさを感じる露出だった。
駅の近くの、短い横断歩道の向こう側である。
すわ見間違いかと思い、眉根にしわを寄せてしっかり見つめてみると、やはり確実にチラ見えしていた。
丸見えとまではいかない。チラ見えであった。
通報、すべきだろうか。
実は見ず知らずのおじさんではないのだ。
彼は普段から上はTシャツ、下は薄手のTバックのショートデニムという、ダブルTスタイルでその辺をウロついている人だ。
よく駅前のコンビニで、お茶をたくさん買っている姿を見かける。
露出狂ではないのではないだろうか?
なんらかのアクシデントで、しまい忘れているだけでは?
そうこうしている内に、信号は青に変わった。
おじさんは平然とスタスタ歩き、そのまま駅方面へと消えていった。
通報すべきだったのだろうか。
それとも「出てますよ」と教えるべきだっただろうか。
いやいや、どんな性格のおじさんか分からないのだ。
「出てますよ」と声をかけたとたん、「出してんだよォ!!」と激高される可能性だってある。
結果的に、無視するのが一番安全な気がしてしまう。
今夜、あのおじさんに会った住民たちは、この小さい煩悶を抱えるのだろうか。
10分後、普通にパトカーのサイレンが聞こえてきた。

刷り込みヴェノム
僕が『スパイダーマン3』を観たのは2007年。
スパイダーマン こと ピーター・パーカーにベチョベチョのヘドロみたいなエイリアン(通称・シンビオート)が憑りつき、大トラブルになる映画だ。
シンビオートは宿主を大幅にパワーアップするが、代わりにワイルドな衝動が抑えられなくなる。
スパイダーマンがワイルドになった結果、
・態度がデカくなる
・敵に対して「死んでもいっか」と思うようになる
・服を買ったあと踊る
・元カノに今カノを見せつける
などの奇行に走っていた。
「このままじゃダメだ!」と思ったピーターは、シンビオートとの分離を決意。
どうにかこうにか引っぺがせたものの、シンビオートはスパイダーマンに恨みを持つ男 エディ・ブロックと合体してしまうのであった…。
こういった流れで、スパイダーマンの宿敵【ヴェノム】は誕生する。
コミックスには1980年代に登場した人気キャラだ。
人気キャラクターゆえ、誕生エピソード いわゆる”オリジン”は何度も映像化されている。
上記の実写映画はもちろん、僕が小学生のころに観ていた『スパイダーマン / アニメイテッド・シリーズ』(1995-)や、『スペクタキュラー・スパイダーマン』(2009-)。
近年ではゲーム『Marvel’s Spider-Man 2』(2023)が記憶に新しい。
シンビオートに憑りつかれて、とにかく調子に乗って、反省した後、ヴェノム爆誕。
個人的な見どころは「調子に乗るパート」だが、やっぱり『スパイダーマン3』が圧倒的に面白い。
”前髪を垂らして踊る”が、調子こきのテッペンて。ヤバい、ピーター可愛すぎ。
そして、原点であるコミックスでも、もちろん同じ流れが描かれている… と思っていた時期が、俺にもありました。
先週初めてヴェノム誕生周りのコミックスを読んで、本当にビックリした。
ピーターが、いつまで経っても調子に乗らない!
シンビオートは、宿主の性格を別に変えたりしないらしい。
バカな。暴力性に嫌気が刺さないと、シンビオートを剥がす動機が無いじゃないか!
そう思いながら読み進めていると、「便利なコスチュームだと思ってたら、生物らしい…。キモい…。」というあんまりな理由で分離していた。
ヒドいぜ、ピーター。エイリアンとはいえ心があるんだぞ。
「シンビオートに共生されると性格が変わる」というのは、あまりに見すぎて当然の設定だと思い込んでいた。
なにしろ小学生の頃からの刷り込みだ。20年以上、コミックスもそういうもんだと…。
じゃあ、この設定なに? 誰が言い出したやつ?
調べました。土日を使って。
初出は『スパイダーマン / アニメイテッド・シリーズ』(1995-)のオリジナル設定だった。お前かい。
見どころの作りやすい優秀なアニオリだったためか、その後のメディアミックス作品ではほとんど踏襲されている、という訳だ。
この話、知らん人からしたら何を騒いでいるのか分からないと思うけど、本当に衝撃だったんだよ。
ドラえもんのスネ夫、実はアニメオリジナルキャラでした、と言われるようなものだ。
いや、さすがに過言か? んー、過言でした。
はい。静かにします。

SUPERナカムラブラザーズ

CloverPitから抜け出せない
みんな、ギャンブルは好きか。
僕はあんまりやったことが無い。
試しにパチンコ店に入ってみた経験はあるけど、どこで何をすればお金をパチンコ台に入れることができるのか分からず、半ベソをかきながら退散した。
それでもスリルは感じてみたい欲求はある。
お金はびた一文かけたくないけど、強烈なヒリヒリは味わいたい。
できれば家で。
そんな僕にうってつけなのが、『CloverPit』なんですね。
『CloverPit』はSteamで遊べるインディーゲームだ。
プレイヤーは、暗くて狭くて陰気くさい独房に閉じ込められている。
目の前にあるスロットマシンをプレイして、ラウンドごとに決められた借金を支払えなければ即死。
借金額は、死のピンチを搔い潜るたびに上昇する。
最初は75コイン返せばよかったのが、あれよあれよという間に200,000コインを超えてしまう。
問題のスロットは【レモン】や【サクランボ】の図柄を三つ揃えて、2コイン稼げる、とかそんなレベルだ。ざけんな。
そんなこんなで何度も何度も死ぬうちに、徐々に効率的な方法が分かってくる。
やっぱ金稼ぎは、頭が大事ってワケ。
ランダムで手に入るアイテムをうま~いこと組み合わせれば、ほら。
【サクランボ】が揃うだけで、120,000コインだ。見たか。これが多摩美術大学中退者の頭脳プレイだ。
ちなみに、いくら借金を返しても独房からは出られないっぽい。
スロットが楽しすぎてすっかり忘れてた。脱出が目的だった。
どうやらプレイヤーをここに閉じ込めたヤツがいる。
ソイツを出し抜いて脱出するには、借金額がさらに上がるアイテムを使用する必要がありそうだ。
えっ、嫌なんですけど!?
稼ぎが減るの、嫌なんですけど!!!?!?!?
つまりプレイヤーは、脱出しなくてもいいのだ。
スロットを回し続け、射幸心で脳みそをトロトロにしたければ、独房にいつまでいてもいいのだ。
ほーら、君もやりたくなってきたんじゃないか?
ジャックポットの演出が見たいだろう、チャリンチャリンチャリンチャリン・・・。







